『透明なわたしたち』レビュー|アジア最優秀賞を獲ったABEMAドラマ、本当にそこまで刺さるのか確かめた

「配信ドラマって地上波の劣化版でしょ?」——この偏見、そろそろ捨てたほうがいい

白状すると、自分もそっち側の人間だった。ABEMAのオリジナルドラマと聞いても、恋愛リアリティショーの延長くらいのイメージしかなくて、「社会派群像サスペンス」と言われてもピンと来なかった。

ところが『透明なわたしたち』は、第30回アジア・テレビジョン・アワードの「ベストオリジナルドラマシリーズ(OTT)」部門で最優秀賞を獲った。日本メディアとして初。1996年創設、52部門、世界各国の審査員が選ぶ賞だ。さすがにこれは無視できない。

全6話を一気見した結論を先に言う。傑作かと聞かれれば「そこまでではない」。でも、42分×6話でこの密度と余韻を残せるドラマは、ちょっと他に思いつかない。

渋谷の無差別刺傷事件——開局の「嫌なリアリティ」が強い

2024年の渋谷で、身元不明の青年が凶悪な無差別刺傷事件を起こす。週刊誌ゴシップライターの中川碧(福原遥)は、犯人の特徴的なメイクが高校最後の文化祭で見た同級生のものと気づく。ここから、疎遠になっていた仲間たちに再びコンタクトを取り始める。

設定だけ聞くと既視感があるかもしれない。でもこのドラマが巧いのは、碧の動機が純粋な正義感じゃない点だ。報道記者を目指していたのにゴシップ記事を書いている苛立ちと、「もし犯人が同級生なら、これはスクープになる」という打算。その両方が、最初から剥き出しで描かれる。

全6話で過去(富山の高校時代)と現在(東京)を行き来しながらふたつの事件が並走する構成。これが混乱なく成立しているのは、脚本の松本優作(映画『Winny』『ぜんぶ、ボクのせい』)の設計力によるものだ。プロデュースは藤井道人(『ヤクザと家族 The Family』『正体』)。このスタッフ陣で6話完結というのは、かなり贅沢な座組と言っていい。

「居場所がない」を描いて、説教臭くならないのは希少

「現代の若者の生きづらさ」をテーマにした作品は多い。そしてたいてい、どこかで「社会が悪い」「大人が分かってない」というメッセージが前面に出てきて、見る側が構えてしまう。

『透明なわたしたち』は、そうならない。松本監督が「白か黒かで決めつけてしまう時代に、グレーゾーンをもっと大事にしたかった」と語っている通り、登場人物全員がどこか「正しいこと」をしているつもりで、結果として誰かを追い詰めている。碧は正義感で動いているようで、スクープ欲にも動かされている。犯人だと疑われた同級生・喜多野(伊藤健太郎)は冤罪で人生を壊された。SNSで犯人を特定した主婦は承認欲求の塊。

この構造を6話で破綻なく描き切るのは、相当な腕がないと無理だ。

ABEMAで全話配信中

この手の社会派ドラマは、刺さる人には深く刺さるし、合わない人にはとことん合わない。だから文章で延々と説明するより、1話見て判断してもらうのがいちばん早い。42分で合否が分かる。ABEMAプレミアムは月額1,180円(税込)で追っかけ再生もダウンロードも使い放題。広告が気にならないなら月額680円(税込)の広告つきプランでも全話見られる。映画1本分の値段で全6話、試す価値はある。

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福原遥の芝居——「まいんちゃん」の殻を破れたか

主演の福原遥は、「まいんちゃん」「プリキュア」「ゆるキャン△」のイメージが根強い。週刊誌ゴシップライターという役は、相当な冒険だったはずだ。

結論から言うと、ハマっている。特に第3話、犯人の名前が明かされた瞬間の動揺を、セリフではなく目の芝居で見せてくるくだりは説得力がある。ただし、視聴者の一部からは「碧というキャラクターが作りもの感が強い」「周囲のキャストの演技が際立つ分、浮いて見える場面がある」という声もある。個人的には、碧の「自分は正しい」と思い込んでいる鈍感さが福原のクリーンなイメージと重なって、むしろ効果的だと感じたが、好みは分かれるだろう。

脇を固めるキャストには隙がない。小野花梨の風花は、上京してADになったが激務で心を壊すという「理想と現実の落差」を体現するキャラクター。武田玲奈の梨沙は地元でホステスになっていて、27歳で女子高生パートも演じるが違和感がないのは見事。伊藤健太郎は、高校時代のダンス部エースが冤罪で闇堕ちしていく過程を、表情の対比だけで見せてくる。林裕太の尾関も、地味ながら存在感のある演技で印象に残った。

主題歌は幾田りら書き下ろしの「Sign」。世界観にぴったり合っているが、ここは好みの問題なので言及に留める。

正直に書く——このドラマの弱点

褒めるばかりでは公平じゃないので、気になった点も書いておく。

1. 結末が「できすぎている」。渋谷事件の犯人が明かされた後、登場人物たちの人生が前を向きはじめる展開は、それまでの暗い空気との落差が大きい。ご都合主義とまでは言わないが、もう少し余韻を残す終わり方もあったのではないか。

2. 碧の私生活描写が薄い。同棲中の恋人がいるのに浮気していたり、仕事のことで頭がいっぱいだったりするくだりが、ストーリーに活きていない。この尺で描くなら、いっそ切っても良かった気がする。

3. 6話では足りない、と感じる部分がある。渋谷事件の犯人の背景——ヤングケアラーだった過去、母の死——は重いテーマだが、6話の中では駆け足気味に処理されている。もう2話あれば、犯人側のドラマがもっと深まったはずだ。

これらは「ダメ」ではなく「もったいない」のレベルだ。全体の完成度を著しく損なうものではないが、神作と呼ぶにはこの辺りが引っかかる。

こんな人に刺さる / こんな人は合わない

刺さる人:

  • 「自分の居場所がない」と感じたことがある人
  • SNSの正義に違和感を持ちつつも加担してしまう自覚がある人
  • 映画のような密度のドラマを短時間で一気見したい人
  • 福原遥の新境地を見たい人
  • Netflix配信で海外でも話題になった作品を押さえたい人

合わない人:

  • ドラマに明快なカタルシスやハッピーエンドを求める人
  • モヤモヤした余韻が苦手な人
  • 主人公に感情移入したいタイプの人(碧は好き嫌いが分かれる)
  • 社会派と聞いただけで構える人

「アジア最優秀賞」は、配信ドラマの可能性を証明した

最後に。アジア・テレビジョン・アワードのOTT部門で日本メディア初の最優秀賞を獲ったという事実は、単に「ABEMAが頑張った」以上の意味がある。日本の配信オリジナルドラマが国際的に通用することを示した一作だ。

『透明なわたしたち』は、傑作かと聞かれれば留保がつく。結末のまとめ方、主人公の描写の甘さ、6話という尺の限界。弱点はある。でも、見終わった後に「自分がこれまで正しいと思ってやってきたこと」をほんの少しだけ疑いたくなる。そういうドラマは、そう多くない。42分×6話で、その体験ができるなら、試す価値は十分にある。